東大大学院中退の戯言

院生だった当時に気持ちを吐き出すためにこのブログを開設しました。自称うつ病で中退しましたが、なんとか生きてます。

うつ病のメカニズムおよび診断基準

※あくまで医学の素人がネットや論文で知りえた情報です。
自分の体について色々知りたかったので調べてみたのでまとめてみる。
うつ病のメカニズムや最新の研究について知ることができた。

うつ病の脳内メカニズム

そもそもの鬱の原因はモノアミン仮説と呼ばれる脳内の異常だと考えらえれている。
一方で、ストレスなどの環境要因がなぜそのような脳の状態を引き起こす要因となるのかははっきりしていないが、一般にはHPA仮説と呼ばれる説が受け入れられている。
ここではモノアミン仮説から始まり、ストレスがそれらを引き起こす仕組み(HPA仮説)を紹介する。

モノアミン仮説

やる気に関わる信号が伝達する仕組み

*1
やる気に関わる信号の伝達にはモノアミン系と呼ばれる神経伝達物質が関わっているとされている。これらの物質が神経細胞ニューロン)から次の神経細胞へと信号を伝えるのに役立ってる。

  1. まず、ニューロンの抹消で電気信号が発生すると抹消付近にある神経伝達物質が入った袋(シナプス小胞)から神経伝達物質が放出される
  2. 放出された伝達物質は次のニューロンの受容体に取り込まれる
  3. 受容体に取り込まれると電気信号が発生し、次のニューロンに情報として伝わっていく
  4. 受容体に取り込まれなかった残りの伝達物質たちは再び元のニューロンに取り込まれる。これを再取り込みという。

うつ病はこのモノアミン系の伝達物質濃度が十分でなく信号がうまく伝わらないのだと考えられており、それがモノアミン仮説呼ばれている。抗うつ剤などでは再取り込みを阻害する形でうつ病を治そうとしている。*2

モノアミン系がやる気(うつ)に関わると考えられている理由

モノアミン神経伝達物質(モノアミンしんけいでんたつぶっしつ、monoamine neurotransmitter)はアミノ基を一個だけ含む神経伝達物質または神経修飾物質の総称である。セロトニンノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミンドーパミンなどが含まれる。このうちノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミンはカテコール基をもつためカテコールアミンと呼ばれる。
wikipedia:モノアミン神経伝達物質

抗うつ薬の歴史は,1950 年代のモノアミン酸化酵素(MAO:monoamine oxidase)阻害薬と三環系抗うつ薬(TCA:tricyclic antidepressant)の発見に始まる.MAO 阻害薬は,モノアミン(セロトニン,ノルエピネフリンドパミン)神経系の神経終末に存在するMAO を阻害することにより,脳内モノアミン含量を増加させる作用を有する.一方,TCA は神経終末に存在するセロトニンとノルエピネフリンの再取り込み部位(トランスポーター)に作用することにより,神経伝達物質の取り込みを阻害し,結果としてシナプス間隙におけるセロトニンやノルエピネフリンの濃度を増加させ,これらの神経伝達を増強させる作用を有する.このような事より,うつ病の病態におけるモノアミンの神経伝達異常が関与しているという「うつ病のモノアミン仮説」が提唱された.
出典:うつ病と脳由来神経栄養因子(2006)橋本

ストレスによる鬱の発生機構(HPA仮説)

未だにストレスがなぜうつ状態を引き起こすのか明確にはなっていないが、
仮説として有力なのが「視床下部-下垂体-副腎皮質系仮説」である。*3
*4

視床下部-下垂体-副腎皮質系仮説(HPA仮説)

ストレス刺激に対する内分泌系の応答システムとして視床下部‒下垂体‒副腎皮質(hypothalamic - pituitary - adrenal axis:HPA)系がよく知られている。

ストレスにさらされるとHPA系でコルチゾールというストレスホルモンが分泌される。
このコルチゾールは血糖値および血圧の上昇や、免疫力の低下を引き起こす。
適度にストレスがある状態だと、血糖値の上昇や血圧の上昇により良い興奮状態を引き起こすことになるが、過度にストレスがかかってしまうと高血糖や高血圧を引き起こしてしまう。

また、HPA系にはフィードバック機構が備わっており、正常であればコルチゾールが過剰に分泌されないように適度に抑制してくれるのだが、過剰なストレスにさらされHPA系が壊れてしまうとフィードバックがうまく作用しなくなり過剰にコルチゾールを分泌するようになる。
こうなると、さきほどのように高血圧や高血糖さらには免疫力の低下を引き起こしてしまう。

さらに、コルチゾールの生成にはコレステロールを必要とするが、コルチゾールが過剰に作られる状態にあると同じくコレステロールを原料とするテストステロンやエストロゲンといった物質が作られにくくなってしまう。
このテストステロンやエストロゲンと言った物質はドーパミンの分泌を促す効果があるので、テストステロンの減少によって無気力ややる気の低下を引き起こすと考えられている。*5

これがHPA仮説と呼ばれている。

実際、

  1. このHPA系に異常をきたした患者*6鬱状態によく似た症状を呈すること。
  2. HPA系に異常をきたした患者は本来の抗うつ剤が効かないこと
  3. HPA系に異常をきたした患者は抗うつ剤とは別のコルチゾール合成酵素阻害剤*7が効くこと

といった事実が知られている。

うつ病の診断

これまで見てきたようにうつ病はそのメカニズムは脳内にあるが、脳を直接覗いたり計測することはできないので、問診や観察によって診断されているのが現状だ。
その診断基準になるものがDSM-5としてまとめられている。

うつ病の診断基準」として、一般に(医療関係者も含む)使用されているのは
“ Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition ”( DSM-5 ) (AmericanPsychiatric Association, 2013)の「抑うつエピソード」の診断基準(p.160-161)
出典:日本うつ病学会治療ガイドライン

そのDSM-5の内容について具体的に記しておく。

DSM-5の評価項目 *8

定型型のうつ病診断基準

1.抑うつ気分
2.興味・喜びの著しい減退
3.著しい体重減少・増加(1か月で5%以上)、あるいはほとんど毎日の食欲の減退・増加
4.ほとんど毎日の不眠または睡眠過剰
5.ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止
6.ほとんど毎日の疲労感または気力の減退
7.ほとんど毎日の無価値観、罪責感
8.思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる
9.死についての反復思考

これらのうち、

・5つ以上が2週間以上続くこと
・1か2のどちらかは必ず認めること
・苦痛を感じている事、生活に支障を来していること

を満たすと「抑うつエピソード」であると判断され、
更に
・他の疾患を除外している事(例えばお薬で誘発されたうつ状態など)
を満たすと、うつ病の診断基準を満たすこととなる。

非定型型うつ病の診断基準

A.気分の反応性
B.以下のうち2つ以上
(1) 有意の体重増加または食欲増加
(2) 過眠
(3) 鉛様の麻痺
(4) 長期間に渡り対人関係上の拒絶に敏感で、意味のある社会的または職業的障害を引き起こしている
C.同一エピソードの間に「メランコリアの特徴を伴う」「緊張病を伴う」の基準を満たさない

気分反応性とは、非定型うつ病の最大の特徴で、落ち込んでいても楽しい出来事があると気分が改善するという症状。

鉛様の麻痺というのは、身体に鉛が入っているかのように重いという事で、手足に重み・鈍さを感じ、重みでつぶれそうな感覚となることもある。

また拒絶過敏性というのは、他者からの目を過剰に気にし、「拒絶」に対して過剰に反応するというものです。ちょっと注意されただけで「拒絶された!」と感じて大きく落ち込み、時には仕事を休んだり、衝動行為(リストカットや暴力など)に至ることもある。拒絶過敏性は抑うつ状態にない時にも認めますが、抑うつ状態の時は一層悪化する。

また、Cは「他のタイプのうつ病ではない」という意味になります。

注意

以上が一般にうつ病の診断に使われる診断基準だが、注意しておかなければならないのが、DSM-5が絶対というわけではないことだ。
DSMは発展途上であり、これからますます改良が期待されている診断基準である。(ゆくゆくはDSM-6,DSM-7...)絶対というものはない。
うつ病は症状前後の変化や家族歴なんかも判断基準となってくる。なので、必ずしも自己診断で決めつけられるものではない。
(これを書いていて、自分もきちんと病院に行こうと思いました。)

感想

うつ病のメカニズムが分かっていながら問診でしか診断できないというのはしっくりこない。
前提としてわかっていることは

  1. うつ病の症状 ⇒ 何らかの異常をきたしている
  2. 投薬 ⇔ うつ病のメカニズム(モノアミン系、HPA系)に効く

であって

うつ病の症状 ⇒ モノアミン系かHPA系の異常

は自明ではないからだ。
例えば、Aという因子とBという因子が同じようにうつ症状を引き起こすとする。現在確立されている薬物療法はAに対処する方法であるとすると、Bによってうつ症状が出ている患者には何の効果も得られないのだ。*9特に脳という器官はものすごく複雑なので症状と因子が一対一で対応するとは到底思えない。現在知られてない原因でうつ症状を引き起こしてることも十分考えられる。

なので、問診だけから原因を推定して投薬するというのは少々疑問がある。

問診で全て決めてしまうというのは今の技術上精神医学ではどうすることもできないが、脳科学や測定機器の発達によって精神医学の世界でも計測によって定量的診断や脳内異常の因子や箇所を特定できるようになれば良いと願う。*10


*1:http://utsu.m48.coreserver.jp/UTU2-11.html

*2:しかし脳内の病態が明らかにされていない以上、逆の病態が大うつ病性障害の根本原因と結論付けることは出来ず、あくまで仮説にとどまっている。そもそも脳そのものの神経伝達物質の動きは見ることができないという技術的限界がある。 さらにこの仮説に対する反論としては、シナプス間隙のノルアドレナリンセロトニンの低下がうつ病の原因であるとすれば、抗うつ薬は即効性があってしかるべきである。うつの改善には最低2週間要することを考えると、この反論は一理あると言えるwikipedia:モノアミン神経伝達物質

*3:視床下部―下垂体―副腎皮質系過活動モデルを用いた治療抵抗性うつ病モデルの作製および薬効評価(2008)北村ら

*4:wikipedia:視床下部-下垂体-副腎系

*5:正確にはこの状態は副腎疲労といってうつ病と似て非なるものらしい。HPA仮説と副腎疲労が別物なのかよくわからんかった。

*6:クッシング症患者

*7:メチラポンおよびケトコナゾール

*8:非定型うつ病の診断基準|ICD-10、DSM-5

*9:例えばモノアミン系によるうつ症状とクレッシング症によるうつ症状の例

*10:脳波の利用はてんかんの診断で行われているし、脳血流でうつ病を診断しようとする研究などもあるhttp://www.jsomt.jp/journal/pdf/056030122.pdf